坂戸いずみ教会・礼拝説教集

<キリストの愛とともに歩もう>イエス・キリストを愛し、自分を愛し、人を愛して、平和を生み出すことを願います。

  2021年5月16日 主日礼拝説教  「お金では買えないもの」

2021年5月16日 主日礼拝説教       
聖 書  使徒言行録8章9~25節
説教者 山岡 創牧師

9ところで、この町に以前からシモンという人がいて、魔術を使ってサマリアの人々を驚かせ、偉大な人物と自称していた。 10それで、小さな者から大きな者に至るまで皆、「この人こそ偉大なものといわれる神の力だ」と言って注目していた。 11人々が彼に注目したのは、長い間その魔術に心を奪われていたからである。 12しかし、フィリポが神の国イエス・キリストの名について福音(ふくいん)を告げ知らせるのを人々は信じ、男も女も洗礼を受けた。 13シモン自身も信じて洗礼を受け、いつもフィリポにつき従い、すばらしいしるしと奇跡が行われるのを見て驚いていた。
14エルサレムにいた使徒(しと)たちは、サマリアの人々が神の言葉を受け入れたと聞き、ペトロとヨハネをそこへ行かせた。 15二人はサマリアに下って行き、聖霊(せいれい)を受けるようにとその人々のために祈った。 16人々は主イエスの名によって洗礼を受けていただけで、聖霊はまだだれの上にも降っていなかったからである。 17ペトロとヨハネが人々の上に手を置くと、彼らは聖霊を受けた。 18シモンは、使徒たちが手を置くことで、“霊”が与えられるのを見、金を持って来て、 19言った。「わたしが手を置けば、だれでも聖霊が受けられるように、わたしにもその力を授けてください。」 20すると、ペトロは言った。「この金は、お前と一緒に滅びてしまうがよい。神の賜物(たまもの)を金で手に入れられると思っているからだ。 21お前はこのことに何のかかわりもなければ、権利もない。お前の心が神の前に正しくないからだ。 22この悪事を悔い改め、主に祈れ。そのような心の思いでも、赦(ゆる)していただけるかもしれないからだ。 23お前は腹黒い者であり、悪の縄目(なわめ)に縛られていることが、わたしには分かっている。」 24シモンは答えた。「おっしゃったことが何一つわたしの身に起こらないように、主に祈ってください。」
25このように、ペトロとヨハネは、主の言葉を力強く証しして語った後、サマリアの多くの村で福音を告げ知らせて、エルサレムに帰って行った。


      「お金では買えないもの」
 シモンは何が欲しかったのでしょう?彼は、お金を持って来て、ペトロとヨハネに、「わたしが手を置けば、だれでも聖霊が受けられるように、わたしにもその力を授けてください」(19節)と頼みました。単純に考えれば、聖霊を授ける力を手に入れたかったのということになります。
けれども、今日の聖書の話をもう少しよく読んでみると、シモンが欲しかったのは、聖霊を授ける力ではないのではないか、と思います。シモンにとって、聖霊を授ける力とは、手段なのです。必ずしも、その力でなくてもいい。彼の心の奥にある欲求を満たせるものであれば、どんな手段でもよかったのだと思うのです。シモンが心の奥底で欲していたものは、いったい何だったのでしょうか?
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 シモンは、「魔術を使ってサマリアの人々を驚かせ、偉大な人物と自称していた」(9節)といいます。そして、サマリアの人々は子どもから大人まで、シモンの魔術に心を奪われ、「この人こそ偉大なものといわれる神の力だ」(10節)とほめていたようです。そんなふうに人から言われて、シモンも自分を誇っていたに違いありません。
 ところが、ステファノの処刑をきっかけにエルサレム教会に対する大迫害が起こって、海外出身のユダヤ人クリスチャンたちが、エルサレムからユダヤサマリア地方に逃げて来ました。その一人、フィリポは、ステファノと並んで、エルサレム教会で毎日の食糧配給を任された人物で、優れた言葉と力を持っていたようです。サマリアの人々は、フィリポが行う悪霊祓(ばら)いや病の癒しに驚き、喜び、彼の語る神の国イエス・キリストの名についての福音」(12節)に耳を傾けました。そして、男も女も多くの人が信じて洗礼を受けたといいます。シモン自身も洗礼を受け、フィリポの行う「すばらしいしるしと奇跡」(13節)に驚いていました。
 そこに、エルサレム教会から使徒であるペトロとヨハネが遣(つか)わされてやって来ます。洗礼を受けたサマリアの人々に聖霊を授けるためでした。二人から聖霊を受けた人々は、もしかしたら、天使の言葉と言われる異言を語り始めたのかも知れません。それを見たシモンは、金を持って来て、自分にも聖霊を授ける力を与えてほしいと願ったのです。
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 シモンは、魔術を使って人々から注目され、称賛されて来ました。けれども、フィリポが来たことによって、その注目と称賛は彼に持って行かれました。シモン自身、驚いて、フィリポに着き従い、そのしるしと奇跡の根源的な力はどこにあるのかと探っていたようです。その意味では、彼の洗礼は、フィリポに近づき、その力を見極めるための方便であり、フェイクだったのかも知れません。
 ところが、ペトロとヨハネが見せた力は、それ以上に驚くべきものでした。その力を手に入れれば、再び自分が注目され、称賛されるとシモンは思ったのでしょう。
 つまりシモンは、承認欲求のとても強い人物だったと思うのです。人から注目されたい。ほめられたい。認められたい。そのように承認を得ることで、良い気分になりたい。自分には価値があるということを確かめたい。そのために、彼は手段として力を欲したのです。シモンが本当に欲しかったもの、それは人からの承認だったと思うのです。
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 人から認められたい。承認欲求は多かれ少なかれだれにでもあります。
私が牧師になって5年目ぐらい、まだ30歳を過ぎたぐらいの頃でしたが、約60教会から成る埼玉地区の地区委員となり、書記に選ばれたことがありました。若かった私には、それはちょっと誇らしいことでした。そんな時、埼玉地区のある教会に新しい牧師が着任し、その就任式に私も出席しました。式が終わり、お茶菓子をいただきながらお祝い会になりました。司会者が、外部から出席したゲストに、お祝いの言葉をいただくためにマイクを回していました。私は、自分に順番が回って来たら、何を話そうかと、ちょっとドキドキしていました。その時、私は、“次は、埼玉地区書記をなさっている山岡創先生です”と紹介されることを期待していました。そのように承認され、認知されて、出席している人たちの前で面目をほどこしたかったのです。
 ところが、司会者は、そのように紹介するどころか、私の順番を飛ばしました。時間の都合か見落としたのか分かりませんが、私は腹が立ちました。“無礼者!若いと思って侮(あなど)りやがったな!おれは埼玉地区の書記様だぞ!”そんな思いが心の中を駆け巡りました。けれども、帰りの車の中で、冷静になって考えた時、私は自分の中に、そんなさもしい根性が潜(ひそ)んでいたことに愕然(がくぜん)としました。人にどう思われるかではなく、神さまからどのように見られているかだと、いつも説教していたはずなのに‥‥‥。それ以来、私は自分の内に、さもしい承認欲求を感じた時は、この時の出来事を思い出して自分を戒(いまし)めるように心がけています。
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 承認欲求はだれにでもあります。その欲求が良い意味でモチベーションとして働き、自信につながることもあります。けれども、承認欲求が強すぎると、その言動や振る舞いは浅ましく、見苦しくなります。また、人の承認を得るために行動するわけですから、人の目を気にし、人の期待に応えようとし、その結果、人の思いに縛られ、振り回されて、不自由を感じ、ストレスを溜(た)めることになります。
 その醜さ、不幸、不自由から脱して、喜んで、平安に、自由に生きるためにはどうすればよいのでしょうか?私がキリスト教心理学だと思っているアドラー心理学流に言うならば、人の承認を求めず、自分らしく生きれば、人から認められず嫌われるかも知れない。その嫌われる勇気を持って生きる、ということになります。それを聖書的に、信仰的に言うならば、人からどう見られるかではなく、神さまからどう見られているかということを、自分の生き方の土台とする、ということです。人に承認されようと思ったら、人の期待に応え、人の要求を満たさなければならない。けれども、神さまに認められるには、神さまに愛されるには、何の条件もありません。私たちがどんな人間であろうと、神さまは、私たちを造られた方として、また主イエス・キリストの命がけの償(つぐな)いのゆえに、無条件で一人ひとりを愛してくださるからです。自分がどんな人間であろうと、神さまに好かれ、認められ、愛されている。それが、私たち人間の根源的な価値です。喜びです。慰めです。支えです。それを、ただ信じるだけです。
 その価値は決してお金では買えない。信仰によってしか手に入れられないものです。シモンはこの後、信仰生活を歩み、この喜びに気づいたでしょうか。私たちも、神さまに愛されている自分の価値に気づき、信じ、また確認しながら進みましょう。その上で人間関係、条件付きではなく、誠実に、互いに愛し合う道を模索していきましょう。

 

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