２０２１年８月１日 主日礼拝説教 「神がなさること」
聖 書 使徒言行録11章1～18節
説教者 山岡 創牧師
11:1 さて、使徒たちとユダヤにいる兄弟たちは、異邦人も神の言葉を受け入れたことを耳にした。
11:2 ペトロがエルサレムに上って来たとき、割礼を受けている者たちは彼を非難して、
11:3 「あなたは割礼を受けていない者たちのところへ行き、一緒に食事をした」と言った。
11:4 そこで、ペトロは事の次第を順序正しく説明し始めた。
11:5 「わたしがヤッファの町にいて祈っていると、我を忘れたようになって幻(まぼろし)を見ました。大きな布のような入れ物が、四隅でつるされて、天からわたしのところまで下りて来たのです。
11:6 その中をよく見ると、地上の獣(けもの)、野獣(やじゅう)、這(は)うもの、空の鳥などが入っていました。
11:7 そして、『ペトロよ、身を起こし、屠(ほふ)って食べなさい』と言う声を聞きましたが、
11:8 わたしは言いました。『主よ、とんでもないことです。清くない物、汚(けが)れた物は口にしたことがありません。』
11:9 すると、『神が清めた物を、清くないなどと、あなたは言ってはならない』と、再び天から声が返って来ました。
11:10 こういうことが三度あって、また全部の物が天に引き上げられてしまいました。
11:11 そのとき、カイサリアからわたしのところに差し向けられた三人の人が、わたしたちのいた家に到着しました。
11:12 すると、“霊”がわたしに、『ためらわないで一緒に行きなさい』と言われました。ここにいる六人の兄弟も一緒に来て、わたしたちはその人の家に入ったのです。
11:13 彼は、自分の家に天使が立っているのを見たこと、また、その天使が、こう告げたことを話してくれました。『ヤッファに人を送って、ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。
11:14 あなたと家族の者すべてを救う言葉をあなたに話してくれる。』
11:15 わたしが話しだすと、聖霊が最初わたしたちの上に降ったように、彼らの上にも降ったのです。
11:16 そのとき、わたしは、『ヨハネは水で洗礼を授けたが、あなたがたは聖霊によって洗礼を受ける』と言っておられた主の言葉を思い出しました。
11:17 こうして、主イエス・キリストを信じるようになったわたしたちに与えてくださったのと同じ賜物(たまもの)を、神が彼らにもお与えになったのなら、わたしのような者が、神がそうなさるのをどうして妨(さまた)げることができたでしょうか。」
11:18 この言葉を聞いて人々は静まり、「それでは、神は異邦人をも悔(く)い改めさせ、命を与えてくださったのだ」と言って、神を賛美した。
「神がなさること」
ペトロは、ローマ帝国の百人隊長コルネリウスの家に行き、主イエス・キリストの愛と救いを語りました。すると、その話を聞いていたコルネリウスをはじめとする人々に、聖霊なる神が降りました。それはすなわち、彼らがキリストの愛と救いを信じて受け入れたことを意味します。“イエスはわたしの救い主”と信じたのです。そこでペトロは即座に、聖霊を受けた彼らに洗礼を授（さず)けました。直前の10章に描かれています。
この出来事は、今日の聖書の17節の言葉を借りて言えば、“神がなさったこと”にほかなりません。10章45節に「ペトロと一緒に来た人は皆、聖霊の賜物(たまもの)が異邦人の上にも注がれているのを見て、大いに驚いた」とありますが、神さまのなさることは時に、私たちの常識や想像を超えて、私たちを驚かせます。
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けれども、時々わたしたちは、神さまがなさることを拒絶し、妨げようとすることがあるのではないでしょうか。私たちの小さな常識や想像や思考の枠(わく)に、神さまのなさることが納(おさ)まり切らず、受け入れられなくなるからです。
コルネリウスら異邦人たちが「神の言葉を受け入れたこと」（1節）を、「使徒たちとユダヤにいる兄弟たち」（1節）、つまりエルサレム教会のユダヤ人クリスチャンたちも耳にしました。ところが、その出来事を喜ぶよりも、おそらく一部の人たちだと思いますが、「あなたは割礼を受けていない者たちのところへ行き、一緒に食事をした」（3節）と言って、ペトロを非難したのです。
割礼というのは、神さまに選ばれ、祝福を約束された民族のしるしとして、ユダヤ人男子が体に刻むしるしです。そのように割礼を受けることが、神の掟(おきて)である律法に定められています。そして、割礼を受けていない異邦人は汚れているので付き合ってはならない、食事を一緒にしてはならないと、同じく律法に定められているのです。
ユダヤ人は律法を守ることによって神さまに認められ、愛され、神の国に入ることができると信じて順守して来ました。だから、主イエス・キリストの教えと、十字架と復活を信じることで救われる、キリストを通して示された神の愛によって救われると信じたとは言え、今までユダヤ人として生きて来た宗教的な慣習を、そう簡単には切り換えることができなかったのです。10章を読めば分かるように、ペトロも最初はそうでした。キリストの恵みと神の愛を信じることも大事だが、律法を守ることも大事だと、救いの条件が２つあるかのように考えていたのです。そして、この時点では律法に重きを置くユダヤ人クリスチャンも少なからずいたと思われます。そういう人々が、ペトロの取った行動を律法違反だと非難したのです。
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そこでペトロは、「事の次第を順序正しく説明」（4節）しました。自分がヤッファの革なめし職人シモンの家に滞在して祈っていた時、幻を通して、自分たちユダヤ人が汚れている、食事を一緒にしてはならないと考えている異邦人を、神さまが清められたことを知ったこと。それでコルネリウスの家に行ったこと。彼の家でキリストの救いを話していると、聖霊が彼らにも降ったこと。それで即座に彼らに洗礼を授けたことをペトロは説明しました。そして、彼はこう言います。
「こうして、主イエス・キリストを信じるようになったわたしたちに与えてくださったのと同じ賜物を、神が彼らにもお与えになったのなら、わたしのような者が、神がそうなさるのをどうして妨げることができたでしょうか」（17節）。
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この世界は神さまがお造(つく)りになり、治め、導いておられると私たちは信じます。そして、私たちの人生にも神さまは働きかけておられると信じています。そこには、私たちが自分の意思で行うことだけではなく、神さまがなさることがあります。その出来事を喜び、感謝する時もあります。けれども、拒絶し、妨げようとするような時もあります。神さまのなさることが、私たちの小さな常識、想像、思考の枠に納まらないからです。
ドガンッ！教会のドアが開いた。見るとウェデイングドレス、そしてタキシードを着た中年のカップルが立っている。‥‥「すみません‥‥。訳あって結婚式を挙げられないのです。せめて記念にと、写真スタジオで写真を撮りました。でも彼女、本当は教会で式を挙げるのが夢だったんです。‥‥牧師さん、お願いです！今から短い式をしてください！20時までにスタジオにドレスを返さなきゃいけないんです」。
日本福音ルーテル東京教会の牧師（2020年3月退任）であり、牧師ロックスというバンドのライブ活動もなさっている関野和寛牧師が、日本キリスト教団の伝道冊子『こころの友』に〈神の祝福をあなたに ～ 歌舞伎町の裏からゴッドブレス！〉というタイトルで連載していた文書の一部です。
今まで巻き込まれたことのある事件が脳裏に浮かび、俺は断った。「結婚式を挙げるためには教会で５回の結婚講座を受けてもらわなくてはなりません。申し訳ありませんが、お帰りください」。諦(あきら)めた二人は落胆した表情で教会から出ていった。
そのとき、ロッケン牧師の心に動揺が走った。断ったのは保身のためじゃないのか？神の祝福、ゴッドブレスはそんなに小さなものなのか？いや違う！ バタンッ！俺は教会のドアを開け、二人を追いかけ尋ねた。「神の前で嘘(うそ)のない愛を誓えますか？」。二人は真剣な目で「はい」と答えた。‥‥‥‥
愛せない理由より愛する理由を、一緒に生きられない理由より、生きる理由を探せ。リスクがあるからやらない理由よりも、それでもそれを行う理由を探せ、と。バタンッ！俺の心のドアがまた一つ開いた夜だった。
（『神の祝福をあなたに』36～37頁、日本キリスト教団出版局）
愛って、こうだよなぁ、と感動します。でも、私もやっちゃいそうです。結婚講座を受けなければ教会で結婚式はできません。洗礼式も、礼拝にしばらく通って、受洗準備会をしなければ、洗礼は受けられません。自分の小さな常識と思考で、そんなふうに、神さまがなさることを少なからず妨げてきたように思います。
もちろん、教会の規則やこの世の常識を何でもかんでも徒(いたずら)に破ることが良いとは思いません。しかし、神さまがなさること、神の祝福、ゴッドブレスは、まさにそんな小さなものではないはずです。愛する理由を、一緒に生きる理由を、それでも行う理由を探して行動する。それが愛です。キリストの愛です。
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ペトロの説明を聞いた人々は、神さまがなさったことを受け入れ、「神を賛美した」（18節）とあります。そこが素敵な結末です。自分の常識、正義を打ち破って、バタンッと心のドアが開いた瞬間です。私たちもこうでありたいと心から願います。
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